今回はロバート・B・チャルディーニさん著の『影響力の武器』で紹介されている「返報性のルール」について紹介します。
この記事を読むと、次の3点がわかります。
- 「返報性のルール」とは何か?
- 「返報性のルール」が強力な力を持つ理由
- 「返報性のルール」の効果が弱まるケース
それでは、さっそく見ていきましょう。
『影響力の武器』の概要
本書の著者であるロバート・B・チャルディーニさんは、実験心理学者です。
著者は、研究室での実験だけでは飽き足らず、他人にイエスと言わせるプロたちの世界に潜り込んできました。
つまり、その道のプロたちの研修会などに潜り込み、効果的なテクニックや戦略を内側から研究してきたのです。
このような経験から、著者は次のことを学びました。
それは、その道のプロたちが相手にイエスと言わせるために使う戦術は数限りなくあっても、その大部分は基本的なカテゴリーに分類できるということです。
それぞれのカテゴリーを支配するのは、人間の行動をつかさどる基本的な心理学の原理であり、この原理が、用いられる戦術の力となっています。
ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器[第3版]ーなぜ、人は動かされるのか』2020(株式会社 誠信書房)
『影響力の武器[第3版]』では、人に影響力を持つ原理を「影響力の武器」と呼んでいます。
人の行動を誘導するテクニックを熟知している者に対して、私たちは恐ろしいほど無防備になります。
本書で紹介されている「影響力の武器」は、次の6つです。
- 返報性
- 一貫性
- 社会的証明
- 好意
- 権威
- 希少性
今回の記事では、非常に強力な影響力を持つ「返報性」に注目していきます。
返報性のルールとは?
返報性のルールをひとことで言うと「受けた恩義は返さなくてはならない(返さずにはいられない)」です。
相手から親切にしてもらったら、お返しをせざるにはいられないというものです。
たとえば、自分の仕事が忙しすぎるときに、同僚から「こっちの仕事はやっておくよ。その書類ちょうだい」と言ってくれたとしましょう。
以前、私が強制的に定時で帰らなければならなかったときに、同僚が言ってくれたことでした。
私一人ではとても対処しきれなかったので、同僚にはとても感謝をしています。
もしその同僚が忙しいときには、率先して助けてあげたいと思っています。
そう、これが「返報性のルール」です。
返報性のルールの強力な効果
「返報性のルール」は、簡単に無視できるものではありません。
私が思うに、人類全体がこのルールに従っているのではないでしょうか。
日常生活、ビジネス、恋愛、さまざまなシーンで使える万能な方法といっても過言ではありません。
返報性のルールを利用しようと思ったら、次のことを覚えておくと良いです。
何かお願いをしたいとき、先に恩を売っておくと聞き入れられやすい
このルールのすごいところは「余計なお世話のときも発動する」ということです。
余計なお世話とは、別に欲しくないものをもらったときが当てはまります。
たとえば、
- アンケートの中にちょっとしたプレゼントを入れておくと、回収率が上がる
- ちょっとしたオマケやプレゼントを渡すと、商品が売れやすい(試供品や試食など)
試供品や試食は、身近な例かと思います。
販売者は「商品の良さを知ってほしいから」と言いつつも、実際には返報性のルールを使っているのです。
相手にちょっとした恩を売っておくことで、自分の要求を通りやすくする効果があります。
それでは、なぜ私たちは恩を返そうとするのでしょうか。
返報性のルールが働く理由
私たちは「返報性のルール」に大きな影響を受けています。
これは人間の遺伝子レベル(本能)の問題なのか、それとも文化的に醸造されたものなのでしょうか。
『影響力の武器』では、返報性のルールができたのは、社会的な理由からだと述べられています。
返報性のルールが確立されたのは、人と人とのあいだの互恵関係を促進し、人が損をする心配なしにそうした関係に踏み出せるようにするためでした。
ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器[第3版]ーなぜ、人は動かされるのか』2020(株式会社 誠信書房)
それに思い出していただきたいのですが、相互に返報を行う関係は、そうした関係を育んできた文化に多大な利益を与えるので、このルールが確実に目的達成に資するよう、強い圧力がかかっているのです。
ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器[第3版]ーなぜ、人は動かされるのか』2020(株式会社 誠信書房)
上記の内容を補足説明すると、次のとおりです。
- 返報性のルールは、お互いに平等な交換を促進するためのルール
- 人間社会のシステムでは、お互いに支え合う関係がとても重要
- なぜなら、社会の維持・発展に必要だから
私たちは、相手からの親切に対して、お返しをするように子どもの頃から訓練されています。
これを悪用すると「小さな親切で大きなお返しを引き出す」ということになります。
では、なぜそこまで強力な力を持っているのでしょうか。
「お返しをしなければならない」と強く思う理由は、次の2つです。
- 恩義が心理的な重荷になり、早く解放されたいと感じる(不快感)
- 恩を受けてそれを返さない人は、周りから嫌われてしまう(外聞が悪い)
この2つが同時に発生するので「返報性のルール」が成り立ちます。
以上のことから、「返報性のルール」を悪用されると「小さな親切に大きすぎるお返しをしてしまう」ことになるのです。
家族は例外
これまで紹介してきた内容には、実は例外があります。
それは「家族や特に親しい友人など、長期的に関わりが続く人たち」が相手のときです。
たとえば「自分が病院に行くので同行してほしい」と家族に頼む状況だとしましょう。
家族は自分のために予定を合わせて同行し、診察に半日かかったとしましょう。
あなたは、同行した家族に対して「受けた恩にお礼をしないと、精神的に重荷になる」と感じますか?
おそらく「ノー」だと思います。
家族と一口に言っても、いろいろな関係性があるため、一概に言い切れないと思いますが、「ノー」と答える人が多いのではないでしょうか。
「返報性のルール」は次のようなときは、効果が弱まります。
- 家族や親しい友人など、長期的に関わる人が相手のとき
- お互いに、相手が必要とするときに、喜んで提供するという関係のとき
なお、いくら家族だからといって、一方的に搾取するような関係は当てはまらないと思います。
どっちのほうが多く与えたとか、どっちが少ないとかを気にしないで、ギブアンドテイクができている関係が必要ということです。
家族ってありがたい
私は先日、手術のために2週間ほど入院をしていました。
入院中、歯ブラシや下着などの日用品は病院側が用意しません。
そのため、家族に頼んで持ってきてもらう必要があります。
ありがたいことに、入院中の着替えや日用品を持ってきてくれるだけでなく、手術前の診察にも付き添ってもらいました。
ここでふと「返報性のルール」の観点から考えてみました。
もし、家族がいなくて、友人などに頼まざるを得ない状況だったらどうなっていたんでしょうか。
入院中の世話を友人がしてくれたら?
私が入院中に欲しいと思ったものは、
- お風呂に入れないので、体を拭くシートが欲しい
- 予備の着替えが足りなくなったので持ってきてほしい
- 読書したいから、本を持ってきてほしい
- 映画を観たいから、iPadと充電器を持ってきてほしい
など、数え出したらけっこうあります。
家族には、抵抗なく欲しいものを頼むことができました。
しかし相手が友人となると話は別です。
「返報性のルール」が発揮されるのを予期するからなのか、非常に頼みにくいです。
頼んだとしても、1回だけでしょう。
足りないものは自分で調達するか、我慢していたと思います。
そう考えると、困ったときに助けてもらいやすいのは家族なんだと実感しました。
損得勘定を気にせず(多少はありますが)、お互いに与え合う関係性は、非常にありがたいです。
甘えられるときは存分に甘えて、いつかのタイミングで返そうと思えるからです。
自分が恩を売る側になると見えるもの
一方、自分が恩を売る側になったときのことを考えてみます。
子育てはどうでしょうか。
子育てはまさに自己犠牲の塊ですが、これは子どもに恩を売っていることになるでしょうか。
答えは「ノー」だと思います。
なぜなら、子育ては親切心でやっているのではなく、やって当然という意識だからです。(個人差はあると思いますが)
そもそも返してもらうものではありません。
親切とは、他人にしてあげるささやかな手助けだと考えています。
仮に「返報性のルール」が親切心をもとに発動するものであれば、他人と家族とでは効果の大きさが変わって当然と言えるでしょう。
家族に対しては、必要なときは惜しみなく手助けをしますし、それは「返報性のルール」から外れたものになると考えています。
まとめ
今回の記事では『影響力の武器』から「返報性のルール」について紹介しました。
内容とまとめると、次のとおりです。
- 返報性のルールとは、受けた恩義を返さなければならない(返さずにはいられない)というもの
- 返報性のルールが働く理由は、社会を維持・発展させるために不可欠なものだから
- 家族には甘えられるときに甘える。返報性のルールは横に置いておいて、いつかのタイミングでお礼をたっぷりすればよい
家族からの援助はありがたいですが、申し訳とも感じてしまうものです。
しかし、他者から受ける恩と比べると、非常に受け取りやすいものです。
甘えられるときは存分に甘えて、違う機会にたっぷりお礼をすればいいと考えています。
『影響力の武器』では「返報性のルール」以外にも、影響力を及ぼす武器が紹介されています。
気になる方は、ぜひ手に取ってみてください。